新しいかたち

往復書簡二十通目

この時期少しずつ開いてくる庭の梅の蕾が楽しみ 


前略 菊川博子さま

あっという間に1月は過ぎ去り気がつくともう立春を迎えました。予想はしていたけれどまだまだコロナの影響は大きく、仕切り直しの思いで迎えた新年スタートの出鼻をくじかれたと感じておられる方も多いでしょう。かくいう私も間違いなくその一人。それに加えここ最近「なんだかなあ」と思うことがたくさんあって、どうにもこうにも気持ちを立て直すことができないでいました。2022年初めての往復書簡がこんな始まりで申し訳ないのだけれど仕方がない。「ごめんなさい」と先に謝らせてください(笑)。

ことの発端はいろいろあるのだけれど、その一つが毎年恒例のえべっさん参り(関西では商売繁盛の神様であるえびす様を親しみ込めてこう呼びます)の帰りの出来事。私の仕事を様々な面でバックアップしてくれているウエブディレクターのKさんと毎年お参りの後に新たな年の抱負を語り合い、お互いそれに向かって頑張ろうと決起集会のように盛り上がるのですが、なんと今年はなにも浮かばなかったのです。とにかくその日は寒くておまけに本降りの雨模様。体だけでなく心も頭も寒さで縮こもってしまったようで、なんだか後ろ向きな考えしか浮かんできません。

「本を出したい」「アートフェアを成功させたい」「新たなスペースを作りたい」そんな自分には絶対無理と思えることを口に出すことによって自分を奮い立たせてきてそれらの実現にこぎつけた訳ですが、今年はなにかを口に出せば出すほど収集がつかなくなる始末。最初は目標を達成して虚脱状態なのかな、私、とも思いました。でもそうではなさそう。だってアート中之島はまだまだ課題が山積みだし「こぉと」運営もこれから。目標達成したなどと言えるわけもありません。けれど一応形にはなっているのですから本来なら落ち込むことなんてないはず。でもどこかでここまでアートの仕事を頑張っているのだから認めてほしい、誰かに私の仕事を評価してほしい、などという実にさもしい考えがその時私の頭に渦巻いていたのです。アート業界から少し距離を置くことを選んだくせに勝手なものです。

そんなもやもやを引きずったまま一月も終わりを迎えようとしたところ、友人が私にくれた言葉に勇気づけられました。「成果より価値が大切なんじゃない?」つまり人は頑張った結果として数字や賞賛といった成果を求めます。でも価値に目を向けることを意外におろそかにしているのではないかと。価値と一言でいっても人それぞれ。まさによく使うフレーズ「価値観の違い」の通りそのとらえ方は違います。彼女はこんな風に続けました。「私たちのかれこれ5年ほどの付き合いが今とても強い繋がりとなって一緒に仕事をしている。それこそが本当に価値のあること。数字には表せないけれどとても価値のある重要なことなんじゃないかな」。ふつふつとした日々を過ごしていた私の中で、すとんと何か腑に落ちた感じがしました。そして今繋がったいる人たちとの縁はものすごく大切で重くて尊い価値のあるもだと今更ながら気づいたのです。そう思うと誰かに認められたいなどという欲求はとてもちっぽけでなんの価値もないのではないかと。さらには無理やり目標を立てなくとも今年は”成果より価値を重視する”というテーマで突き進んでいっていいんじゃないかとも思えてきたのです。菊川さんとイベントしたり往復書簡を交わしたり、それは私たちのビジネスにおいて成果としてはまだ上がっていないけれどとても価値のあること。価値を高めた上で成果に繋がるよう頑張っていきましょう!どんよりムードで始まった書簡ですが、書いているうちになぜか元気になってきました。(書くこと大事ですね!笑)

さて話は変わりますがここ最近の私の関心ごとは引き続き家の中のこと。ダイニングの照明が古びてきてカバーのアクリルも枠から外れ落下寸前(アロンアルファで2度修理したのだけれど)。次に購入するペンダントを年明けすぐ2つにまで候補を絞りショールームに見に行ったり、長年買い足そうと考えていたスツールをやっと購入したり、、、あれあれ?落ち込んでいる割にインテリアがらみだといろいろ動いてるな、私(笑)。やっぱり根っからのインテリア好きなのですね。菊川さんが言うように仕事も暮らしも延長上にあって、それぞれが上手い具合に影響を与えつつ補いつつ、日々を過ごすことこそ理想だと私も信じています。そう思うと長く時間を過ごす住空間も常によりよく心地よく保たなければなりません。だってお仕事に繋がっていくわけだから。家を整えてきちんとごはんを食べて一杯本を読んでたくさんのことに感謝して、そういう毎日を送ることが大切なのだと菊川さんとやり取りする度に心から思います。私は野菜は育てていないけれどご存じのように近所の直売所で新鮮な野菜がたくさん手に入ります。大地の恵みにパワーをもらうべく今から買いものにでかけることにしましょう。まずは白菜のグリルにしようかしら?(すぐに影響されちゃう、こと食べることに関しては、笑)

立春という春の始まりと同時に私の心にも新たな風が吹き込んできたようです。今年も2人で楽しいことを(お仕事?)を計画して価値あるものにしていきましょうね。


 

草々
2022年2月4日

アートアドバイザー 奥村くみ

 

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