「今、自分がやりたいこと、できること」を選びながら柔軟に生きる

August 2022
Text: Mari Matsunaga
Photo: Go Kakizaki

逗子を拠点に活動する移動式の花屋「桜山植物園」を主宰する須田小百合さん。実はリネンアンドデコールのホームページを2014年、2020年と2度に渡り手掛けてくれたWebデザイナーで、この「リネンとおいしい時間」のコンテンツの生みの親でもあります。今は花の仕事で活躍する須田小百合さんが昨年から無農薬での花の栽培を始めたと聞き、土いじりが大好きな菊川が話を伺いました。



“子どもの頃はおこずかいを全部植物に使っていました”

菊川
6年くらい前、打合せの後ランチをしていたときに須田さんから突然「花屋になります!」って宣言されてびっくりしました。

須田
わ〜覚えています! 花の仕事関係の人に限らずいろいろな人に働き方について話を聞いている時だったので、菊川さんにも質問攻めでしたよね。

菊川
私は自分の事を何を話したか全く覚えていないのですが、技術の進化によって10年後無くなっている業種についてとかも話題に上がっていたような…。その中で須田さんがお花のことや夢についてを好奇心一杯に楽しそうに話されていたのがとっても印象的で今でも心に残っています。いつから花屋になりたいと思っていたのですか?
 
須田
植物は小さい頃から好きだったんです。小学校低学年くらいから、おこずかいは全部といっていいほど園芸店の見切り品コーナでパンジーなどの苗や種、土の購入につぎこんで自己流で植えていました。実家は純和風の庭だったのですが、自宅の庭を「イングリッシュガーデンにしたい!」って(笑)。 親に内緒で突然松の木をノコギリで切っちゃったり…。秋になったら「秋を見つけに行こう!」って友達を引き連れて近くの山に行き、栗やどんぐりを取ってきたりするこどもでした。
 
菊川
かわいい子ども時代!会社員やフリーのWebデザイナーも経験していますよね。
 
須田
大学卒業後はバッグメーカーに就職しました。職人になりたいと思っていたのですが、オンラインショップの運営などをするEC部門に配属されました。何かを作ることが好きだったのでWeb制作の仕事は向いていたと思います。菊川さんと出会ったのはフリーのデザイナーとして独立したばかりの頃ですね。
 
菊川
須田さんとは最初イベントで出会ったんですよね。話も合うし、Web制作をしていると聞いて、丁度その時ホームページをリニューアルしたいと思っていたタイミングだったので運命だと思ってその後直ぐに連絡をとった気がします(笑)。
 
須田
デザイナーの仕事も楽しかったのですが、昼夜逆転のような生活が続いていて…。心身ともに無理なく長く続けられる仕事ってなんだろうと考えていたら昔からずっと好きだった植物に関する仕事がしたいと思ったんです。ゼロからのスタートでしたが、一軒の花屋で修業するのではなく、ブーケを得意としているフローリストさんや、会場装飾をメインにしている方、お店をされている方など色々な人について学ばせてもらいました。
 
菊川
普通の人とは違うアプローチが須田さんらしい。「桜山植物園」っていうネーミング、ずっとセンスがいいなと思っていましたが、どうしてこの名前にしたのですか?
 
須田
私がやりたいのは、お店を構えて、たくさんの花を毎日揃えて売る花屋とは違う。植物園みたいに、オープンで気軽に立ち寄れる存在になりたいなと。植物園って公園や庭園とはまた違って、研究や教育の役割もありますよね。海外の植物園のように、堅苦しくなく自由な雰囲気で、植物や自然のサイクルを考えるきっかけとなる学びの場にできたらという想いがありました。桜山はゆかりのある地名ですが、実店舗はありません。でも実在する植物園と思われることが多くて、「どこにあるのですか?」とよく聞かれます。あとなぜか、おじさんがやっていると思っていたと言われたことも(笑)。
 
菊川
実際はこんなに美人さんがやっているのにね(笑)。 堅苦しくなく自由な雰囲気というのも須田さんらしい。実店舗も花の在庫も持たないスタイルは今どきだけど、6年前の開業時、このスタイルは新しかったですよね。
 
須田
お金も場所もないし、お花を無駄にもしたくない…。現実的にこのスタイルしかなかったとも言えます(笑)。 でも結果的にやりたいことができる、理にかなっているスタイルでした。




“自然豊かな立地を生かして、農薬を使わずに花を作りたい”
 
菊川
花を作っていると聞いて最初驚きました。花屋さんで、花を作るのは珍しいなと思って。しかも無農薬でお花を作ろうと思ったきっかけは?
 
須田
コロナでイベント等の仕事が減って、地元の逗子や横須賀など神奈川県南東部を回る定期便を始めました。自分で車を運転して配達していたのですが、このあたりは畑が多いんです。自然が多いこの立地を生かしたいと思い、花を作れる畑を探すことにしました。花の勉強のために2018年に留学していたイギリスで参加したワークショップの影響もあります。イギリスでは花を栽培している花屋さんも多いんですよ。日本では野菜に比べて無農薬の花はあまり馴染みがないですが、もし私が作るなら農薬を使わずに育てたいと思っていました。タイミングよく、葉山を拠点に野菜料理を中心としたケータリングをしているMEALSさんの紹介で、横須賀にある無農薬、無化学肥料の農園、SHO Farmさんと知り合い、シェア畑を貸していただけることになったんです。そのご縁から今のFarm Gardenが生まれました。





“畑作りは大変さより、今はおもしろさが勝っています”
 
菊川
私も今、趣味で野菜を作っているけれど、畑作りって奥が深いですよね。栽培を始めて大変だったことはありますか?
 
須田
大変さより、今はおもしろさが勝っています。常にトライアンドエラーの連続ですが、何から手をつけていいかわからなかった1年目、SHO Farmさんから教えてもらった「チキントラクター」には驚きました。網で三角形のゲージを作り、その中にニワトリを放つと、ニワトリが移動しながら虫や草を食べ、土を耕してくれます。ゲージを移動しながらした糞は肥料に。ここでは全て手作りなんです。冬は竹林整備のために竹を切り、竹炭を作ります。竹炭は土のなかで菌糸の住処になります。夏に勢いよく伸びる草は刈り取って堆肥にし、春にはその土でまた苗を育てます。この地にあるものを使い、また土に還し一年がまわっていく。持続可能で土壌生態系にもよい方法を彼らからたくさん学んでいます。やることは尽きないので大変ですが、飽きることがないのが最大の面白さだと思います。
 
菊川
「チキントラクター」、初めて聞きました!電気やガソリン、人の労力も使わない、環境にも人にもやさしい方法ですね。面白いな〜。あのお花畑の土壌がそんな風に作られていたとは(興味津々)。そうそう一つ聞いてみたかったのですが、ものを作って売っている身としては、環境負荷の問題というのは難しい課題ですよね。須田さんはどう考えていますか?
 
須田
「無農薬栽培で花を作っている」というと、「環境問題に関心が高い」と思われますが、もし私が作るのなら土地にも人にもやさしい無農薬がいいなと、自分がしたいことを無理のない範囲で選んでいるだけなんです。自然がまさにそうなのですが、理にかなったこと以外は淘汰されるものだと思うので、サステナブルやオーガニックという言葉に縛られすぎたり、また何事もこれが正しいことだと他人に強要しないよう気をつけています。自らが行動し続けることで自ずと答えが見えてくるかなという感覚を頼りにしているところがあります。
 
菊川
須田さんの活ける花や、開催するイベントがいつも心地いいのは、須田さん自身が自然体だからなんですね。集う人たちだけでなく自らも楽しんで活動されているところに魅力を感じます。お花に限らず、洋服や日用品など、売る側も購入する側も、単に売買するだけでなく、同じ目線にたって、どういう背景で生まれてきたのかを伝えたり、知ることも大切ですよね。





“来てくれた人が植物と触れることで笑顔になってくれることがうれしい”
 
菊川
最近、不定期で畑仕事のお手伝いを募集して集まった人たちと一緒に作業をされていますよね。無農薬栽培や、自家採種について私も少し勉強しているので、時間が合えば参加したいな〜と思っていたんです。
 
須田
私もまだまだ試行錯誤中なので、教えるとかではなく、一緒に畑仕事をすることで、お互いに学べたらと思っています。花を育ててみると、頭ではわかっていたけれど、やってみて初めてストンと腑に落ちることがたくさんあって、いかに自分が頭で理解しようとしずぎていたか痛感させられます。一人ではわからなかったことも、新しい人が入ることで気付くこともあり、実際にやってみたいことを試し、学べる環境があることに感謝しています。何より作業後、みなが笑顔で帰っていくことがうれしい! 私も悩んでいるとき、畑仕事をしたり、好きなことに没頭することで、ふっと心が軽くなることがあるので、Farm Gardenがそういう場所になれたらいいですね。




“ワークショップやイベントでその時期ならではの季節の花を共有したい”

 
菊川
奥村くみさんと交わしているWeb往復書簡でも触れましたが、先日参加した「夕暮れの畑で花と野菜を楽しむ会」、本当に楽しかったです。
 
須田
ご参加ありがとうございました。1年目からジニアがきれいに咲いてくれたので、昨年もワークショップを開催したのですが、今年はパワーアップして、SHO FarmさんとMEALSさんと一緒に花だけでなく、野菜も楽しめる、特別な会になりました。
 
須田
昼間は暑いですが7、8月は色々な種類のお花が咲いていてベストシーズンなんですよ。2年目となる今年は、花の種類も増え、また水はけをよくしたので、昨年よりもよく育ってくれました。
 
菊川
暑いから、夏って花の種類が少ないかと思っていました。花摘みからできるフワラーレッスンは新鮮だったし、日差しをたっぷり浴びた夏野菜を使ったサラダやパエリアもおいしかった! 夕暮れの畑はロマンティックで、この季節ならではの贅沢なイベントですね。




“移動式植物園だからこそできることを発信していきたい”
 
須田
SHO Farmさんの畑には、色々な人が見学に来られます。そこで会った方と話をしていて繋がることも多く、例えば地元で花を栽培し始めたご夫婦に出会い、欲しい花をリクエストしたら栽培してくれて仕入れることになったり、料理家の方にドライになる花に興味があると話したら、日本で唯一、伝統的な紅花染に使う烏梅(うばい)を作られている方から紅花の種を分けてもらえることになったり。紅花は今年うまく育たなかったので来年リベンジ! たくさん収穫できたら染めにもチャレンジしたいと思っています。
 
菊川
偶然の出会いって素晴らしいですね。草木染めは、紅花以外でも、その年その年の花で染めたら、毎年違う色を楽しめそう。ぜひリネンの糸や生地で染めるなど、コラボできたらいいですね。ほかにもやりたいことはありますか?
 
須田
やりたいことがたくさんありすぎますね(笑)。移動式植物園なので、ひとつの場所にこだわらず、自由に動けるのがわたしの利点だと思うんです。今いる場所だけでなく、いろいろな場所に活動拠点ができたらいいな。ものづくりをしている友人も多く、違うジャンルの方からヒントをもらうことが多いので、国を問わず、さまざまな業種の人と仕事をしていければと考えています。市場でも花を仕入れていますが、育ててみることで、季節の花を知ることができるし、色や形の移ろいや、鮮度の問題など、以前とは違う視点で見られるようになってきました。何より生産者さんの知識量や実直な努力をまざまざと感じています。今後は各地の生産者さんを訪ねたいと思っています。
 
菊川
須田さんの自由な発想力と行動力がどんどん人を引き寄せていますよね。わたしもまずは動こうと刺激をもらいました。
 
須田
菊川さんとはすごく似たものを感じていて(笑)。仕事を間近でみていて共感できるところがいっぱいあります。草木染めなど、コラボもぜひやりましょう。ちょっと遠いですがまたいつでも遊びに来てくださいね♪


軽やかなフットワークで、いつも新しいことに挑戦している須田さん。意識的に、でも無理することなく選択した「今できること」が、人や環境を思いやることに自然と繋がっていて、須田さんの思い描く植物園のようなコミュニティが広がっています。来年のFarm Gardenではどんな花を咲かせるのか今から楽しみです。


 


<プロフィール>
須田小百合さん
逗子を拠点に活動する移動式の「桜山植物園」主宰。毎月、季節の草花を自宅や店舗に届けてくれる花の定期便が好評。不定期のワークショップやポップアップを開催する傍ら、2021年からは無農薬植物の栽培・販売を開始。

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