新しいかたち

往復書簡三通目

切妻屋根のカレンの家  


前略 奥村くみさま

東京は桜が満開を迎えました。今年は早いですね。
お手紙ありがとうございます。”永田良介商店”早速ググってみました。こんな素敵な家具に囲まれて育ったのですね。廃屋の光景は、まるで美しい映画のワンシーンを観ているような気持ちになりました。時間の経過が織りなす趣や、光と陰影の映し出す美しさ。最近そういうものに目が向くようになった気がします。

インテリア好きになったきっかけ、記憶を辿ってみました。
私が成人するまで過ごしたのは目黒区・碑文谷八幡宮近くの住宅街。幼少期はよく、母と兄、双子の妹と碑文谷公園や西郷山公園、馬事公苑や二子玉川の河原まで足を伸ばして遊んでいました。 習い事のエレクトーンは大っきらい。練習していない自分がわるいのですが、毎回、「怒られませんように」と神社にお参りしてからレッスンにいっていました。そんな子ども時代は"インテリア”を格別意識したことはありませんでした。

私がインテリアに興味を持ち始めたのは、会社勤めを始め友人達と旅行へ出かけるようになってからのことです。 旅行に行くためにお金を貯めているような会社員で、滞在先で素敵な空間を見る度に心が踊りました。 でも、今考えてみると、この時の私にとってインテリアとは非日常の空間を創るものだったように思います。

そんな会社員時代、少し長めの休暇をいただき、アメリカで短期ホームステイをしました。

母の友人が紹介してくれたホストのカレンは、自然溢れるコネチカットに建つ小さな家の住人。裏庭ではハーブや野菜を育て、小さな男の子2人と暮らしていました。
私の部屋は真っ白な塗り壁。飴色のアンティークのベッドに、品の良い花柄のベッドカバー。その上には爽やかなストライプのクッションを合わせて迎えてくれたのを今でも覚えています。照明はフロアスタンドやデスクランプのみで、暖かな雰囲気を醸し出していたことも印象的でした。
なんとなくインテリアや家具に興味がありそうな私をみて、カレンは自分のよく行くアンティークショップやNYソーホーのギャラリーにも連れて行ってくれました。
そうやって集められたアンティーク家具やアートが部屋を彩り、カレンの世界をつくっていました。日々暮らしを楽しむために、くつろげる時間や空間を作り出すために「インテリア」があるということに初めて気づいたのです。

私はこの滞在を終える頃には、インテリアって楽しい、インテリアの仕事につきたい!と心の底から感じ、帰ってきた半年後には家族親戚の反対を押切り会社を辞め、設計の学校に入っていたのでした。この後の話は、またの機会に。

そんな私もインテリアの仕事に携わり、既に25年以上が過ぎました。 自宅のインテリアはまだまだ進化中ですが、日々の生活を楽しみながら仕事に励んでいます。今一番の楽しみは、育てた野菜を使って料理をし、好きな器に盛り付け、美味しいワインと一緒にいただく時間です。
奥村さんは、ご自宅では何をしている時が一番楽しいですか? 家の中でくつろげる場所はどこですか?

草々
2021年3月26日

リネンアンドデコール 菊川 博子

 

奥村くみ プロフィール

菊川博子 プロフィール

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