新しいかたち

往復書簡十一通目

奥村邸のリビングソファーにて 


前略 奥村くみさま

先週末はありがとうございました。明日香は修学旅行で石舞台に行って以来。でも正直記憶はゼロ(笑)。実質は今回初めて行ったようなものでした。奈良盆地を囲む美しい山々と棚田が広がる景色に心を打たれました。セブンイレブンも瓦屋根。お聞きして知りましたが屋根は瓦という規制なのですね。そういう一つ一つの努力でこんなに美しい景観が保たれているのですね。

暮らしの中にアートがあるってこういうことか。今回ご自宅にお邪魔して実感しました。自分でもアートを生活に取り入れているつもりでしたが、全く違いました。アートが生き生きしている!お部屋だけでなく、玄関や階段壁、水回りなどといった家のあらゆる場所でアートとアート、アートと家具、アートと植物など、とても綿密に計算された組み合わせが自然に目に入ってきて、日々、自分の心の中に積み重なっていく。二日間この空間をお客様と共に愉しみましたが、そんな中、私は密かに立体アートにときめきを感じました。
リビングルームにはラトビアの手織りリネン工房で制作してもらったクッションとスローを置かせていただきました。するとどうでしょう。ソファの背面にある田中秀和さんのアートの色彩と何色もの糸を束ねて織られたクッションの色の層が重なって「ぴったり!」。奥村さんと一緒に思いがけずアートとリネンの組み合わせを発見・共有できたのは感激でした。

最近読んだ本の中で、御年98歳の染色家・柚木沙弥郎さんが、
「日本も最近は暮らしに気を配る傾向になってきたように思う。でもまだどうしても食べる楽しみの方が優先で、住まうことに関しては後回しの傾向がある。
お金もかかるし。だけど人生の中でとても重要な要素。先送りしながらとりあえず住むのではなく、毎日をどう暮らすか意識をして取り入れていくことが大切。」
とおっしゃっていました。

今回ご参加くださったお客様達が目をきらきらさせながら私達のトークを聞いてくださったり、リアルな住空間でアートやリネンに触れ合っている様子を見て、HOUSEからHOMEへ。 一人でも多くの人が一歩を踏み出すきかっけになるような提案をしていきたいなあと改めて心の底から感じたのでした。

ところで、実はあのあと大変だったんです! 電車は止まるし、携帯落とすし。だいぶ時間に遅れて奈良町のレストランで夕食を食べ始めたのですが、携帯がないのに気づき顔面蒼白。恐る恐る電話を鳴らしてみると、出たのは交番の女性警官。見知らぬ人がすぐに届けてくれたみたいです。ホッとしたのも束の間、誰よりも方向音痴で交番までの道が不安なのでタクシーを頼もうとしたらなんと1時間待ち!せっかくの料理が終わっちゃう、と、再度、顔面蒼白。 レストランの方は自分がバイクで取りに行くので召し上がっていて下さい、と親切に言ってくださったのですが、勿論警察は本人でないと駄目とのこと。焦った私でも辿り着けるようにお店の方が書いてくれた「スーパーわかりやすい地図」を握りしめ、なんとか交番にたどり着きました。対応してくれた女性警察官は優しく穏やかで、本人確認作業もほのぼの。「私、昨日は明日香に宿泊してましてね〜」なんて雑談でもしそうな雰囲気でした。奈良の人は皆優しいな〜。

そんなトラブルもありましたが、無事に戻りレストランでは美味しい料理とペアリングのワインを堪能しました。せっかく奈良に来たのだから、ということで、奥村さんやお客様や、最終日に宿泊した奈良町の「宿一灯」のオーナーが、いろいろ考えて教えてくれた数々のお店。翌日の昼食もそんなお店の一つに伺うことができ、旬の食材と日本酒を楽しみました。

私は日々の生活や旅先までもこんな感じなのですが、いつもテキパキお仕事をされる奥村さんでも、困ったトラブルや失敗した笑えるエピソードなどあったりするのでしょうか。

至るところにお寺や神社や美しい緑があって身近に歴史を感じられる街の中、風土の魅力を生かした新しい切り口でおしゃれな空間が次々と誕生している奈良。
こぉとは、作品は勿論のこと、床の素材や色など空間も見どころたっぷり。今後はシャンパーニュや珈琲とチョコレートなど魅力的なイベントも企画されているとか。近いうちにもう一度訪れて、もう一度 ”奈良””明日香”を味わいたいな、と思っています。

今朝UPSの追跡を調べたら、例のコラボ商品のサンプルがリトアニアから日本に到着したようです!(写真 /小松真里)

 

草々
2021年7月2日

リネンアンドデコール 菊川博子

 

奥村くみ プロフィール

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