新しいかたち

往復書簡八通目

映画にまつわるお気に入りのエッセイ本 


前略 菊川博子さま

緊急事態宣言も延長となり先の読めない日々が続きます。爽やかな五月晴れの季節を迎えつつやりきれない気持ちになりますが、私たちの初のトークイベントは迷うことなく(もちろん細心の注意を払いながら)決行しようと気持ちが一致したことに一筋の光を見た思いでした。こんな時期だからこそワクワクするような話を皆さんに届けようではありませんか。

先週届いたお便りも盛りだくさんの内容で楽しく読ませていただきました。菊川さんの2つの妄想事項は”妄想スペシャリスト”の私からすれば十分に実現可能レベルと思われます。大人になってから「夢」を語るのはちょっと気恥ずかしいけれど「妄想」まで突き抜けてしまうと何も怖くない。だって冗談めいて言葉に出すことができるし、それを聞いている側も笑いながら受け止めてくれますもの。そしてそんな妄想話はいったん言葉にしてしまうとじわりと人に伝わり実現に向けてどんどん道が開けてくる力を持っているような気がします。大人の特権として臆することなく大いに妄想しましょう!

さてインテリアやアートの話を楽しく伝えられたらいいなあと軽い気持ちで始まったこの企画。おそらく菊川さんも同じような気持ちでいたのではないでしょうか?ところが始まって早々に話の内容は深いところにまで及び、私自身これほどまでに心情を吐露する場になるとは思ってもいませんでした。実は私たちが実際に会った回数は10回にも満たないのです。お気づきでしたか?数えてみたのですが菊川さんと今まで会った回数はたったの6回だけ。それにも拘わらずちょっと踏み込んだ話を公の場であるここで繰り広げていることに少なからず驚きを覚えます。SNSが台頭してきた昨今「縁」という言葉が以前より簡単に使われるようになった気がしますが、簡単に繋がれるからこそ「縁」の見極め方も大切。私はしみじみ菊川さんと出会えてよかったと思っています。

改めて映画「インテリア」について。実は今まで誰ともこの映画の話をしたことはありませんでした。インテリア業界にいながら周りに誰一人この映画を観た人がいなかったから。そして一生この映画を観た気持ちを分かち合ったり語り合うことなくこの世を去るのだろうと大げさですがそんな風に思っていました。ですから先日のリモートミーティングの際、同じシーンで同じことを感じていたという話に及んだ時には鳥肌が立ったし「インテリアの神様ありがとう」と天を仰ぐ気持ちにさえなりました。そしてその瞬間、菊川さんとの縁がより強固なものになったように感じたのです。



映画つながりで本邦初公開?のオハナシです。(正確に言うと神戸元町のブックストアでのトークイベントでちらっとだけ触れたことがあるのだけれど)私は映画の話になるとちょっと頑固で面倒くさい人になります。それは単に映画好きというだけではなく実は女子校生の頃映画部で映画を撮っていたからです。先輩たちの映画制作のお手伝いに始まり最終学年では自分たちが中心となって映画を制作するのですが、ある日突然映画のストーリーが降りてきました。すぐに脚本を書いて友人たちにお願いしてキャスティング、そして私はひたすら撮影してその後手分けして編集作業。物語自体は奇想天外かつ馬鹿々々しく、よくあんな話を思いついたものだと我ながら呆れて笑ってしまいます。けれど今思えば、いじめの問題や権威主義を風刺する内容などが盛り込まれていて、ちょっとトンガっていたあの頃の自分を褒めてあげたくなるのです。

さてその映画を文化祭で上映したところ、遊びにきていた超進学校N校の男の子たちが私のところにやってきて「この映画君が撮ったの?すごく面白いよね!うちの文化祭でも上映してほしい!」といたく感激した様子で語りだしました。それを聞いていた私は「この子たちは頭がよすぎて振り切っちゃって一周してこんなヘンテコな映画に感動するのね」とぼんやりと、しかし半ばクールにそう思ったのをよく覚えています。彼らは今頃いろんな分野で活躍していて日本を牽引しているのかもしれません。昔々17歳の女の子が制作した馬鹿げた短編映画に感動したことなど記憶の欠片にもなく。

そんな訳で私は生まれ変わったら映画監督になりたいのです。妄想通り越してもはや輪廻レベルにまできてしまいました(笑)

そうそう健康のためにしていることの質問がありましたね。今はヨガだけですが長らく走ったり泳いだりしていた時期がありました。なぜ早朝に突然走り出したのか?その話になるとかなり重くて思いだすだけでも辛くで、もう一通分追加せねばなりません。次回に持ち越しをお許しください。

いよいよトークイベントも来週に迫ってきました。おはこびくださる皆さんに私たちのインテリアやアートに対する熱い想いがたくさん伝わりますように。

草々
2021年5月13日

アートアドバイザー 奥村くみ

 

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